
ナット — 保証荷重と、余裕のないめねじ
めっきした 6H ナットにめっきした 6g ボルトが入らない理由、めっき後タップか 6G オーバータップか、保証荷重で判定する ISO 898-2 の区分、そしてナイロンナットの温度上限。
主要仕様の一覧
| ねじ・寸法規格 | ISO 965-3 · 6H |
|---|---|
| 公差域クラス | 6H (6G where tapped before plating) |
| バレル可能範囲 | M3 – M20 |
| ラック / バスケット | ≥ M24, flange and coupling nuts |
| 強度の規定 | ISO 898-2 · proof load, class 4 – 12 |
| ISO 4042 ベーキング | ほとんど該当しない |
| 確認日 | 2026-08-04 |
ナットは穴の開いたボルトではありません。引張強さではなく保証荷重で区分され、めねじは 6H では余裕がゼロで、表面処理ルート全体を決めるのはただ一つ、めっきの前にタップを立てるか後に立てるかです。
この形状がこの工程になる理由
ナットはよく転がります。六角面がバレルに引っかかり、重なりも起きないため、M20 程度まではほぼバレルで流します。その代わりねじは内側にへこんだ部位で、液が抜けにくく、皮膜は両端面から中央に向かって不均一に付きます。めっきナットで最も薄いのはたいていねじの中央部で、そこには測定プローブが届きません。
主な用途分野

ねじ・公差・寸法規格
メートルめねじは ISO 965-1 と ISO 965-3 で公差が定められ、通常は 6H です。その基礎寸法許容差 EI はゼロで、めねじは基準寸法から始まり、皮膜のための取り代がまったくありません。寸法は ISO 4032(スタイル1六角ナット)、ISO 4033(より厚く強いスタイル2)、ISO 4035(薄形)から、JIS B 1181 が日本の対応規格、ISO 2320 がプリベリングトルク形を扱います。
サイズ範囲と治具のかけ方
M3 から M20 がバレルの範囲で、入荷品の大半を占めます。M24 を超えるもの、および座面に傷が許されないフランジナットや長ナットはラックにします。ナットは形状が小さくて密なため、同じ容積でも装入質量が大きく、処理量を制限するのは部品サイズではなく装入量です。
強度の規定
ISO 898-2 はナットを 04、05、4、5、6、8、9、10、12 に区分します。区分数字に100を掛けた値が、硬化させた心金に対して負荷したときにねじが滑らずに耐えるべき応力で、区分8のナットは 8.8 のボルトの荷重を発揮させるためのものです。細目ナットには ISO 898-6 という独自規格がありましたが、2012年の改正で第2部に統合されました。判定は保証荷重試験で、硬さは上限付きの補助的確認にすぎません。硬すぎるナットは降伏して荷重を複数のねじ山に分配せず、ボルトのねじを削ってしまうからです。
皮膜厚さとその制約
6H に余裕がない以上、誠実な選択肢は二つしかありません。めっき後にタップを立てれば、めっきされた外殻の内側に素地のねじが残ります。安価で寸法的にも安全ですが、めっきナットが六角面より先にねじ内から赤錆を出す理由でもあります。もう一つはめっき前のオーバータップで、メートルなら 6G、インチなら相当のオーバーサイズ量を取り、はめあいが緩くなり滑り耐力の余裕が減ることを受け入れます。いずれにせよナットの厚さ指定は控えめで、測定位置は内径ではなく座面です。
| 対象部位 | M10 × 1.5 internal thread, 6H |
|---|---|
| 利用できる余裕 | EI = 0 µm |
| 皮膜厚さの上限 | no room — tap after plating or oversize to 6G |
- ASTM B633 SC 1 — Fe/Zn 5
- SC 2 — Fe/Zn 8 (bearing faces)
水素脆性除去処理
ナットの多くは ISO 4042 のしきい値を下回ります。区分8以下が 390 HV に達することはまれで、ベーキングはこの部品タイプでは例外です。必要なのは二つの場合、すなわち区分10と12のナット、および区分から想像されるより表面がはるかに硬い浸炭ナットです。そして一つ、絶対に避けるべき場合があります。ポリアミド製インサートを持つプリベリングトルクナットは 190〜230 °C のベーキングに耐えられません。インサートはそれよりはるかに低い温度で劣化します。ナイロンナットがベーキングを要する強度なら、変えるべきは炉ではなく皮膜です。
ベーキング要否の判定この部品の壊れ方
- 保証荷重でねじが滑る
ナットが降伏しねじがせん断して、区分の荷重を保持できません。よくある原因は、めっき用にオーバータップした後で区分を再確認していないこと、区分に対して高さが不足していること、区分の上限を超える硬さのナットが荷重を分配せずボルトのねじを削ることです。
- めっき後にボルトが入らない
両方をめっきし、両方が太くなりました。めっきした 6g ボルトとめっきした 6H ナットは組み合わせられません。どちらかが素地のねじを残すか、どちらかを先にオーバータップして初めて成立します。
- ナイロンインサートが効かなくなる
ベーキング、あるいはポリアミドの耐熱を超える炉を通ったプリベリングトルクナットは、インサートが焦げてトルクがゼロになります。組付けは普通にできるのに、緩み止めが働きません。
- ねじ内側から赤錆が出る
めっき後にタップを立てたナットのねじは保護のない素地です。湿度の高い環境ではそこから腐食が始まり外へ広がります。六角面で取った塩水噴霧の結果ではこれを予測できません。
ロットで確認すべき項目
- 1区分を決めるのは保証荷重であって硬さではないISO 898-2 の判定は硬化心金に対する保証荷重試験です。硬さは上限確認と工程の迅速チェックには有用ですが、硬さの数値だけでナット区分を証明することはできません。
- 2めっき後の通り/止まりプラグゲージISO 1502 のプラグゲージをめっき品で使います。めっき後タップなら、タップが皮膜をねじに押し込んでいないことの確認、オーバータップなら、その量が意図した値であることの確認になります。
- 3座面での厚さ測定ISO 3497 に基づき、締結荷重を受ける面で測定し、六角面とは分けて報告します。M6 のねじ中央を通常のプローブで測ることは誰にもできないため、仕様書は座面を測定位置として指定すべきです。
- 4該当する場合はプリベリングトルクISO 2320 は緩み止めナットの初回締付けと繰返し使用のトルク範囲を定めています。部品が緩み止めナットなら、表面処理後に不合格になりやすいのは腐食ではなくこの試験です。
試験方法
このページで引用した規格
技術者からよくある質問
めっきしたナットにめっきしたボルトが入らないのはなぜですか+
両方のねじが太くなったからです。ボルトの 6g は皮膜のための余裕を確保していますが、ナットの 6H は基礎寸法許容差がゼロで何も確保していません。両側に皮膜が付けば干渉します。標準的な対応は、ナットはめっき後にタップを立てるか、めっき前に 6G へオーバータップすることです。
タップはめっきの前と後、どちらが良いですか+
めっき後タップは寸法的に安全で安価ですが、先に錆びる素地のねじが残ります。めっき前オーバータップはねじまで皮膜が付きますが、はめあいが緩く滑り耐力の余裕が減ります。屋外にさらされるのか屋内の乾燥した組付けなのかで答えが変わります。使用条件をお知らせいただければ、当社ならどちらを選ぶかをお伝えします。
区分10・12のナットに電気亜鉛めっきはできますか+
できますが、ベーキングが必要です。これらの区分は ISO 4042 のしきい値を超える硬さになり得るため、電気めっきしたロットはできるだけ速やかに、通常は4時間以内に除去処理を始めます。同じ部品がナイロンインサート付きの緩み止めナットでもある場合、二つの要求は両立しません。その場合に変えるべきは皮膜です。インサートがベーキングに耐えられないからです。
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公開規格と一般的な締結部品の金属学に基づく解説です。数値はいずれも部品・材料・適用仕様によって変わる代表的な範囲であり、お客様の図面と適用規格が常に優先します。皮膜の指定表記は図面で要求できる内容を示すものであり、試験なしにお客様の部品で保証される結果ではありません。


