
ステンレスは系統ごとに焼入れ性が異なる
「ステンレス」は一種類の材料ではなく、挙動が大きく異なる複数の系統に分かれます。特に焼入れで差が出ます。ファスナーでよく使う鋼種は次のとおりです。
- オーステナイト系(304=A2、316=A4)——最も一般的で耐食・非磁性ですが、熱処理では硬化できません。
- マルテンサイト系(410、420、440C)——炭素鋼と同様に熱処理で硬化可能、磁性あり。ドリルねじ・刃物・座金に使われます。
- フェライト系(430)——熱処理では硬化不可、耐食性は中程度。
したがって「焼入れできるか」を答える前に、必ず鋼種を確認する必要があります。
焼入れできる鋼種・できない鋼種
マルテンサイト系(410/420/440)は焼入れ可能で、炭素鋼と同じ焼入れ・焼戻し工程を使います。オーステナイト域(約1,000〜1,050℃)まで加熱し、急冷、そして焼戻し。440Cは約58〜60HRCに達し、刃先や耐摩耗が必要な用途に適します。
オーステナイト系(304/316)は熱処理では硬化できません。急冷しても組織がマルテンサイトに変態しないためです。硬度を上げる唯一の方法は冷間加工(加工硬化)(圧延・成形)で、多少硬くなりますが熱処理ではありません。
よくある誤解として「304ステンレスの焼入れ」の依頼がありますが、多くは勘違いです。当社はまず材質を確認し、その鋼種が本当に焼入れできるかをお伝えして、材料と時間の無駄を防ぎます。
ステンレスに防錆めっきは必要か
通常は不要です。ステンレスは表面のクロム酸化被膜で自ら保護されるため、上から亜鉛めっきをしても防錆の効果はありません。
ただし追加被膜が有効な場合もあります。
- 美観や反射低減のための黒色外観 → ステンレス用黒染めや専用被膜。
- その鋼種の限界を超える厳しい腐食環境(高塩化物・海洋)。
- ねじの焼付き(ガーリング)低減 → 潤滑剤や低摩擦被膜。
原則は「なぜ被膜が必要か」をまず考えること。理由が単なる防錆なら、多くのステンレスは不要です。
不動態化とめっきの違い
不動態化(パッシベーション)は新しい被膜を足すのではなく、酸(硝酸やクエン酸)で表面を洗浄し、埋め込まれた鉄を除去して保護的なクロム酸化被膜を完全に再形成させる処理です。
亜鉛・リン酸めっきと違い、厚みが増えず、目立つ変色もなく、ねじ寸法に影響しないため、寸法公差の厳しい部品に適します。
機械加工・溶接・鋼製工具に触れたステンレスは、耐食性を回復するため不動態化するのが望ましいです。
ステンレスねじの焼付き(ガーリング)と対策
ステンレスのナット・ボルトでよくある問題がねじの焼付き(ガーリング)です。締結時にねじ同士が摩擦で溶着して固着し、外せなくなったりねじ山が破損します。オーステナイト系(304/316)は表面が軟らかく酸化被膜が結合しやすいため発生しやすいです。
低減方法:
- 組付け前にねじへ焼付き防止潤滑剤(アンチシーズ)を塗布。
- ゆっくり締める、急な衝撃を避ける。
- 異なる鋼種を組み合わせる(例:316ボルトに別鋼種ナット)。
- 頻繁に着脱する部品には低摩擦被膜を追加。
当社が対応するステンレス加工
V.S. Heat Treatment は小型ステンレス部品を大量に処理し、部品の実際の鋼種に基づいて助言します。
- マルテンサイト系(410/420/440)の焼入れを雰囲気制御炉で行い、硬さ測定と検査証明書を添付。
- ステンレスに被膜が不要な場合はその旨をお伝えし、不要な費用を避けます。
- 黒色や焼付き防止被膜は実使用上の理由がある場合のみ。
どのステンレス鋼種か不明な場合は、サンプルをお送りください。まず材質を確認し、正しい方法とお見積りをご提案します。
よくある質問
304ステンレスは焼入れできますか?+
熱処理では硬化できません。オーステナイト系のため、冷間加工でしか硬くできません。本当の焼入れには410/420/440などマルテンサイト系が必要です。
ステンレスに防錆の亜鉛めっきは必要ですか?+
通常は不要です。ステンレスはクロム酸化被膜で自己保護します。黒色外観・焼付き防止・特に厳しい腐食環境の場合のみ被膜を追加します。
ステンレスのねじが締結時に固着しました。なぜ?+
ガーリング(焼付き)です。アンチシーズ潤滑剤、ゆっくりした締結、異鋼種の組合せで防げます。
ステンレスの鋼種が分かりません。どうすれば?+
サンプルをお送りください。まず材質を確認し、焼入れの可否と方法をお伝えし、24営業時間以内にお見積りします。



